知財風塵録

経営者、産学連携コーディネーター・URA、発明者(研究者・開発者)が知っておきたい知的財産と特許の世界

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英国(イギリス)のEU離脱と欧州特許(ヨーロッパ特許)補足:英国特許権と欧州特許

 先のブログ記事「英国(イギリス)のEU離脱と欧州特許(ヨーロッパ特許)」:

www.fujinroku.com

のなかで、現状維持となる、とご説明したのですが、背景知識を踏まえて、少し補足してご説明します。

 英国の特許権は、英国の法律に基づいて発生し、英国内で有効です。一般的な原則として、各国の特許権は、各国の法律に基づいて発生し、各国の国内で有効です。現時点では未だ「国際特許権」といった普遍的な特許権はありません。

 ただし、欧州の各国は、欧州特許条約(ヨーロッパ特許条約)を結んで、欧州特許庁(ヨーロッパ特許庁)を設立して、特許出願から特許可能という判断(特許査定)までの手続を、国際的に一元化していて、欧州特許庁で特許査定を受けた場合(欧州特許を得た場合)には、その後に各国の特許庁に対して形式的な手続を行うだけで、各国の特許権を得られる、という仕組みを設けています。これが欧州特許制度です。

 このように、英国の特許権は、欧州特許を得た後に、英国において形式的な手続を行って取得することが通常です。ただし、もちろん、英国をはじめとする各国は、従来からの自国の特許制度を廃止したわけではありませんから、欧州特許庁を経由せずに、各国の特許庁に直接出願して、各国の特許権を得ることも可能です。

(なお、ここまでの書きぶりでお気づきのように、「特許権」という用語は権利を指しており、「特許」という用語は細かく言えば権利ではなくて、特許してよいという判断や処分を指しています。)

 先のブログ記事でご説明したように、ここまでの仕組みには、EUは登場していませんから、英国のEU離脱は影響がなく、現状維持であるということになります。

 しかし、欧州では、特許権の取得や権利行使についての判断について、さらに国際的な一元化を進めてゆこう、という動き(欧州単一特許(Unitary Patent; UP)制度、欧州統一特許裁判所(Unified Patent Court; UPC))があり、永らく停滞していたのですが、そしえ何度も延期していたのですが、今度こそついに、来年にも新しい制度が実現するかも知れないという状態になっています。

 ところが、この新しい制度は、EUの枠内で設計されていて、英国がEU離脱をしてしまうと、この新しい制度に参加できないと見込まれます。英国が離脱しても、英国の地位をイタリアが占めて、ドイツ、フランス、イタリアを中心とした新しい制度が発足できる可能性はあり、そうなると、英国は欧州の新しい特許制度から、取り残されることになります。

 もちろん、新しい制度の運用が開始されても、いろいろな実務が定着して、その新制度の利用が普及するまでには時間を要するものですし、従来の制度(欧州特許条約)は廃止されることなく、そのまま併存する予定ですから、英国にとってのダメージは、すぐにはやってこないはずですが、欧州共通の新しい特許制度から取り残されるとなると、現状維持とは言っても、特許制度面における、英国の相対的な沈下は、避けられないように思われますよね。