知財風塵録

経営者、産学連携コーディネーター・URA、発明者(研究者・開発者)が知っておきたい知的財産と特許の世界

「イソジン(登録商標)」事件から学ぶこと(3)B社側(使用権者側)について

 B社側からすれば、50年以上(!)続けてきた事業の商標ライセンスの更新をしないと、突然に伝えられれば、晴天の霹靂でしょう。
 でも、登録商標をどのように使用させるかは、商標権者の権利であるので、こういったことは常に起こりうることなのです。

 ポビドンヨード製剤のうがい薬と言われてもピンときませんが、「イソジン」と言われれば多くの人がそれがどんなものであるかがわかるほど、「イソジン」の商標は、有名なものです。
 言い換えれば、「イソジン」の商標は「ブランド」となった、あるいは「イソジン」の商標には「信用」が蓄積された、と言えるのです。

 新しく事業を開始するにあたって、自社のブランドに自信がなければ、他社のブランドを使って事業を開始することは、一定の合理性があります。
 しかし、恐ろしいのは、その後に真摯に事業を進めて成功させても、真摯な努力によって蓄積された信用は、他社の「ブランド」(商標)のうえに蓄積されてしまうことです。

 つまり、他人の財産(商標権)の価値を高めるために、事業を進めてきたかのような結果となってしまいます。あるときにその他人(商標権者)が、気がかわって、やっぱり自分で事業を進めていこうと考えて、ライセンス(使用権契約)の更新をしないことにしたら、その商標のうえに蓄積した信用ごと、他社に持って行かれてしまいます。その商標を使えなくなった場合に、同じ商品を同様に販売したとしても、そのブランドに愛着を持つユーザーが多ければ多いほど、それらがまるごと他社のものになってしまうかもしれないのです。

 だから、他社のブランドを使って事業を円滑に開始したとしても、どこかの段階で、自社のブランド(登録商標)を使って事業をすることにして、自社事業の信用の蓄積を、自社でコントロールできるようにしなければなりません。
 (他にもイソジン事件から学ぶことはいろいろあるかと思いますが、最も大切な教訓は、上記の点です。)