「イソジン(登録商標)」事件から学ぶこと(4)A社側(商標権者側)について
A社側からすれば、自社の商標権を使った事業が順調に発展していても、その利益の一部しか自社のものとはならないという不満や、ライセンス(使用権契約)先の事業であるために自らの意志ではその事業を完全にはコントロールできないという不満が、あったかと思います。
しかし、ライセンス(使用権契約)の更新をやめて、その登録商標で自社主導の事業を開始してみたら、元の使用権者が同様の事業を継続することにした結果、思ったほどにはシェアがとれず、あるいは事業が不調となって、以前のようなライセンス(使用権契約)を更新しておいたほうがよかった、という結果となる可能性もあります。そのようになった場合に、どこに誤算があったかと言えば、ライセンス(使用権契約)をした相手先の事業が、その商標を踏み台として、十分に強力に育ってしまった、という点にあるように思われます。その商標が使えなくなったとしても、一定のシェアを持てるだけの強力な相手に育ってしまえば、その事業のスタートアップ時点とは事情は異なってしまっており、登録商標の使用以外にも事業上の強みをもった競合他社に対しては、商標権者と言えども無敵ではありません。結果として、スタートアップ時点でのいわば補助輪を提供して、競合他社を時間をかけて育ててきた、という結果になります。
だから、もし、自社のブランドで事業をする予定があるならば、マーケットが立ち上がった後、ライセンス(使用権契約)先の相手の事業が、十分に強力に育つ前に、自らの意志でコントロールできる事業を開始するほうがよい、ということになるでしょうか。
(他にも「イソジン(登録商標)」事件事件から学ぶことはいろいろあるかと思いますが、最も大切な教訓は、上記の点でしょう。)