知財風塵録

経営者、産学連携コーディネーター・URA、発明者(研究者・開発者)が知っておきたい知的財産と特許の世界

切り餅事件(特許)から学ぶこと(5):知財高裁の判断について

 しかし、知財高裁は、B社の主張を認めませんでした。
 知財高裁は、B社の何らかの製品が平成14年10月21日に発売されたことは認めたうえで、それが公証人に提出されたものと同一の製品(上下面だけではなく側面にもスリットが入った切り餅)であることを認めるに足りる証拠はない、としました。

 そのような判断の根拠として、知財高裁は、以下のようなことをあげています:

・外袋には上下面にスリットが入っていて側面にはスリットが入っていない切り餅の図が印刷されているのに、切り餅そのものは上下面と側面にスリットが入っている、というのは齟齬があり、食品大手のB社がこのような齟齬があるまま商品を市場に置いているのは不自然であること
(つまり、本当は、外袋の図柄の通りに、上下面にスリットが入っていて側面にはスリットが入っていない切り餅が、その外袋に入って当時売られていたのではないか、と知財高裁は言いたいのですね。)

・パック入り「切り餅」製品の購入と保管の経緯や外袋の図柄と内容が一致しない事情を述べるB社の従業員の証言等について、これと整合しない証言があること(A社からの提出)
(つまり、B社の従業員は後から無理に作りあげた事情を述べていたのかも知れないよ、と知財高裁は言いたいのですね。)

・B社の代表取締役や常務取締役が、平成14年10月21日に発売された製品は上下面だけにスリットが入った製品であった(側面にもスリットが入った新製品をその後に発売した)ことを述べたインタビュー記事が複数の新聞に掲載されていたこと(A社からの提出)
(つまり、本当は、上下面にスリットが入っていて側面にはスリットが入っていない切り餅が、当時売られていたのではないか、と知財高裁は言いたいのですね。)

・平成14年10月21日の製品発売の直前(平成14年9月6日)にB社がした特許出願では、上下面にスリットが入った切り餅の発明が記載されていること(一方で、上下面と側面の両方にスリットが入った切り餅の発明は、その翌年(平成15年7月17日)にB社から出願されたこと)
(つまり、特許出願前にその発明の製品を発売するはずないから、本当は、発売直前に特許出願された発明の製品、すなわち上下面にスリットが入っていて側面にはスリットが入っていない切り餅が、当時売られていたのではないか、と知財高裁は言いたいのですね。)